2018/10/20 17:21

20歳代の半ば私がいたのはロンドン。デイトの相手はドイツ人女性。
ある日彼女が持ってきたのはチャック・ベリー公演初日のティケットでした。
チャック・ベリーの名前とロックをやる人ぐらいは知っていたけれど、実際にいくまで、どんな歌を歌っているのか知りませんでした。
そのころはあちこちグループサウンズが結成され、チャック・ベリーは少し古いんじゃないか、とも思っていました。
彼女から厳かに渡されたティケットにはBackstageというスタンプが押されていました。
が、まあいわば舞台裏という意味なので、事情を知らない私は前列2列目か3列目ぐらいのほうがよいのでは、と思っていました。
会場についてBackstageがどんな特等席か、というのがよくわかりました。

数人、Backstage のティケットを握りしめた人間が演奏する人間に混じって舞台裏を歩いていました。
それなりに賑やかで、Backstageに来ている連中とプレイヤーと談笑するような声がよく聞こえてきました。
あまりうまくもない英語しか話せない私とドイツ人女性はどちらかといえば沈黙。
そういう雰囲気の中で、一人だけギターを持ち静かに出番を待っている人間がいました。その彼の周りは静謐だけ。
わしを一人にしておいて、誰も話しかけんなよ、という感じ。
私の印象はなんやろこの兄ちゃんは?

さて開演時間が大幅に遅れました。1時間ほど待っても幕が開かず、辛抱強いイギリス人聴衆も時々声を上げて、早よせーや、というようになりました。
Backstageにいた私たちはなぜ幕が開かないのかわかりました。電気が会場に来ていないためです。いわゆる会場の総監督というような感じのスーツを着たおじさんが、青い顔をして、あちこちに怒鳴りまくっています。会場の電気装置を探し回っている感じです。
その時に私が感じたのは、エレキギターを駆使するような連中には電気が必要である、ということでした。
ことわざに、「土方殺すには、刃物はいらぬ、雨の三日も降ればいい」(ごめん古いね)
この伝でいけば「GS殺すには刃物はいらぬ、絶縁三日も続けばいい」となります。

少し話がそれましたが、ようやく通電になり、静かなる男は立ち上がって舞台の真ん中に立ちギターを弾き歌を歌いだしました。
静かなる男はチャック・ベリーだったのです。
演奏が始まると聴衆は総立ちで大熱狂。
公演が終わりBackstageから会場を出ていくときにプレイヤーの一人が叫んだのは、
Unbelievable(信じられねえ)
自分たちの音楽(チャック・ベリー)がまだ受け入れられている、という驚きの声でした。

良い音楽というのは、時代を超えて受け入れられるものですね。